ピルとその周辺 rurikoブログアーカイブ64

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【記事番号】No.64/107
【タイトル】ピルと肥満4つの言説
【URL】https://finedayspill.blogspot.com/2013/04/blog-post_8.html?m=1
【投稿日】2013年4月8日

【全文アーカイブ】
2013年4月8日月曜日
ピルと肥満4つの言説

ピルの服用で太ることはあるのでしょうか?
この問題は関心の強い問題です。
ピルには多くの偏見や誤解がありますが、
ピル服用による肥満については他の誤解や偏見と異なる性質があります。
ピル服用と肥満の関係については、4つの言説があります。

第1 憶測的言説

ピルと肥満に関する言説の第1は、他のピルについての偏見と同じく、憶測に基づく言説です。
ピルを服用すると不妊になるとか、乳がんになりやすいとかの偏見があります。
それは不妊になったり乳がんになったピル服用者の経験から生じたものではありません。
何らかのデータに基づく物でもありません。
妊娠中に体重が増加するならピル服用中にも体重増加があるのではないか、
等の憶測がこの言説を生んでいます。
ピルについての偏見や誤解と同種類の言説です。

第2 経験的言説

ピルと肥満に関する言説には、他の偏見言説とは異なる性質の言説が混じっています。
血栓症リスクや癌リスクの上昇は10万人中数人レベルのリスクを統計的に評価した物です。
服用者が実感できるものでは決してありません。
ところが、ピルの服用による体重変化は、
変化があるにしてもないにしても全ての人が経験できます。
全てのピルユーザーは体重が増えた、減った、変わらなかったと言えるのです。
これは疾病リスクと決定的に異なる点です。
ダイエットのためにウォーキングを始めた人に体重変化を聞くと、
全員が体重が減るわけではなく中には体重が増える人もいます。
ウォーキングでダイエットできたという人もいれば、
逆に体重が増えたという人も出てきます。
ピルを服用して体重が増加したとか、ダイエットしても体重が落ちなくなったとの言説が現れるのは当然とも言えます。

第3 エビデンス的言説

経験的言説では、ピル服用で体重が増えたという人も、変わらないという人も出てきます。
そこで、ピルの服用で体重が増加することはあるのか、
統計的に調べる研究が行われています。
それらの調査結果は、ピル服用で体重が増加することはないとの結論です。
正確にいうと、ピル服用で体重が増加するとの証拠はなかったなのですが、
しばしばピルにより体重が増加しないエビデンスがあるとの言説になっています。

実はピルの服用で体重増加があるかどうのかの研究は、
意外とむつかしいのです。
ピルの場合、被験者を実験群と対照群に分けて、二重盲検テストを行えません。
厳密な実験的研究がむつかしいことに留意する必要があります。
ピル服用者と非服用者の比較研究がむつかしいのに対して、
ピルの種類による体重変化の研究やピルユーザーの属性(人種や服用前体重など)と体重変化の研究は厳密な方法が可能です。
もし、ピルの服用で体重増加がないのなら、
ピルの種類やユーザー属性による違いはないはずですが、
結果はそうなっていません。
ピルは誰にでも体重増加がないのではなく、
一定条件下で肥満の原因となるかもしれません。

コマーシャリズムと肥満言説

アメリカで脱ピル(服用理由に変化はないのに服用を中止する)ユーザーの中止理由を調査すると、約1割が肥満をあげています。
これは製薬メーカーにとってかなり頭の痛い問題です。
メーカーは、上記の「ピルが肥満の原因になることはない」とのエビデンスを最大限に利用しようとします。
しかし、その宣伝は余り効果的でないようにも見えます。
肥えにくいとうたうピルを発売しているメーカーもあるわけで、
ピルで体重増加はないとの言説は説得力を欠いているかもしれません。
プロバイダー(医師等)はというと、2通りに分かれます。
ピルで体重増加がないとエビデンス強調する医師もいますが、
「ピルで体重が増えることはないと思うよ」程度のアドバイスをする医師が多いでしょう。
メルクマニュアルには、「1年に4.5kg以上増加した場合はアンドロゲン作用の弱いOCを用いるべきである」と書かれています(メルクマニュアル日本語版)。
「ピルで体重が増えることはない」は製薬メーカーの台詞で、
医師がその台詞をオウム返しする事はまれです。
なぜなら、そのような断定をすると、体重の増加した女性にアドバイスできなくなってしまうからです。

第4 「ピルとのつきあい方」的言説

日本のガイドライン改訂版には、
「OCの使用による体重増加の根拠は認められないと指導してもよい。」(グレードA)
と書かれています。
グレードAのエビデンスがあるというのです。
だから、どの病院サイトもどのピルサイトも、
判で押したようにピルで体重が増加することはないと書かれています。
ピルで太るというのは中用量ピル時代のことだとか、
ピルで肥るというのは都市伝説だとかきっぱりした書かれ方がなされています。

当サイトはピルで体重が増加しないとのエビデンスも紹介していますが、
ピルの服用で体重の増加する人がいる事も否定しません。
自動車メーカーが車は100%安全だと証明されたと言っても、
運転者には運転には気をつけようという方が親切だと思うからです。

ピルユーザーと向き合う

「ピルとのつきあい方」は開設以来13年余、
一貫してピルユーザーと向き合う姿勢を貫いてきました。
ピルユーザーが妊娠しやすくなる服用法を書くことはできません。
緊急避妊の成功率が低くなるようなことを書くことはできません。
ピルユーザーが肥満のストレスに悩むようなことを書くことはできません。
そして、用心して防げる事なら用心しようと考えるのが、
「ピルとのつきあい方」流ピルとのつきあい方です。
その場合、全く根拠なく慎重対応を求めているのではありません。
合理的説明がつく限りで慎重対応を奨めているつもりです。

このような当サイトの言説は、日本のメジャーなピル言説と齟齬する状況が生じました。
低用量普及推進委員会なるNPOは、「(日本の)文献に書かれている内容と違うので、
当サイトの内容は信用できない」と当サイト攻撃を繰り返してきました。
私がツイッターを始める前に以下のようなツイートが流れました。

Screenshot

「医学書は一切無視、ネットでこのサイトより医者の指示を無視した内容を見たことがない」と書かれています。
たしかに、「ピルで肥るというのは都市伝説です」(キッパリ)が、
日本の医学書かもしれません。
私には心配があります。
肥満は都市伝説と言い放つ医師は、
ピルの服用で体重増加が見られたユーザーにどのように言うのでしょう。
「思い違いよ!」と突っぱねるのでしょうか?
ヨーロッパには卒ピルが多く、アメリカには脱ピルが多いと書きました。
そのアメリカの脱ピル理由の1割は体重増加です。
ピルユーザーに向き合わない言説は、
脱ピルの累々たる山を築きます。
日本で脱ピルの山が築かれていないか心配です。

たとえ日本にピルユーザーと向き合う「医学書」がないとしても、
ピルユーザーと向き合う医療者はいます。
先日「エナ大通クリニックのこと」を書きました。
yun@えな低用量ピルアドバイザーさんの「ぴるぶろ」も少し紹介しました。
彼女の「OCと体重増加」を見てみましょう。
ぴるぶろ>OCと体重増加

とても説得力のある書き方になっているのですが、
ピルによる体重増加の可能性を全面否定はしていません。
これは彼女が真剣にピルユーザーと向き合ってきたことの証明です。
「ピルで肥るというのは都市伝説」と言ってしまっては、
ユーザーをサポートすることはできません。
それを経験的に理解し実践する方が現れていることは、
ピル13年の進歩と言えるでしょう。

Screenshot

しかし、一方でピルユーザーに向き合わない情報が増えたことも事実です。
当サイトと出会い、脱ピルすることなく卒ピルまでピルとつきあうピルユーザーに対して、「つきあい方信者」とレッテル貼りするグループまで生じました。
その結果が卒ピルユーザーの増加ではなく、
かえって脱ピルユーザーの増加ではなかったでしょうか。
ツイッターに以下のツイートが流れました。
「ずっとありがとう」と書かれていました。
ずっとピルとつきあい続けるユーザーがずっと当サイトを信頼してくれていたことに、
感激しました。

ピルユーザーと向き合う医療者、ピルユーザーと向き合う情報。
派手さはなくてもそのような小さな一つ一つが、
この国にピルを定着させていく力だと思います。

時刻: 19:03

【補足(私)】
(ここでは、ピルと体重増加の問題を「迷信か事実か」の二択に押し込まず、
エビデンスと、実際に太ったと感じるユーザーの経験、その両方を抱えたままどう支えるかを筋道立てて整理している。
日本の主流言説に対するカウンターというより、「ユーザーと向き合う医療」と「卒ピルにつながる知識」を守ろうとする立場の確認メモとして読める。)
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