日本で低用量ピルが普及していなかった時代。
医療情報も乏しく、価格も高く、
避妊と生理コントロールに自由がほとんどなかった時代。
その隙間を埋めるように quietly(ひっそりと)存在したサイトがある。
rurikoさんの「ピルとのつきあい方」の奥深くに埋め込まれた、
“見つけた人だけが辿りつける” 小さな入り口。
そこから入れるのが、
個人輸入代行ネットワーク いちぜん会 だった。
この記事では、
いちぜん会が果たした歴史的役割・ネット文化的位置・女性医療史上の価値を
当事者としての体験と史料から整理する。
1|いちぜん会とは何だったのか──女性による、女性のための非公式インフラ
公式説明ではこう書かれていた:
- 「ピルとのつきあい方」主催者 ruriko を中心とする個人的な会
- 日本女性のリプロダクティブヘルス・ライツ向上を目的とする
- 会員なら誰でも利用できる個人輸入代行
- 社会的弱者である学生には学生割引
- ポイント制度で次回のピルを安く提供
しかし、実態はもっと深い。
✔ 医療機関にアクセスしにくい女性たちが
✔ 安全に、安価に、確実に、
✔ 望む避妊手段を手に入れるための「地下鉄道(アンダーグラウンド・レイルロード)」だった。
制度OSが整備されていなかった日本において、
女性たちの身体OSを守るための 草の根テクノロジー が
いちぜん会の正体だ。
2|入り口は“誰も見つけられないほどひっそり”置かれていた
これは象徴的だった。
- トップページには目立たないリンク
- 日記の片隅に埋め込まれたURL
- 気づいた人だけがアクセスできる構造
- しかもアクセスには「謎解き式パスワード」が必要
この“秘密クラブ”のような構造は、
危険から利用者を守るための盾であり、
女性たちが互いに守り合う文化そのものだった。
制度の目から守り、悪質業者を避け、
コミュニティを閉じつつ開いていた。
3|なぜ“個人輸入代行”が必要だったのか──日本の性と医療の遅れ
1999年に低用量ピルが認可されたとき、
日本の医療機関は避妊を“娯楽”と見なす文化が根強く残っていた。
- 価格が高い(1シート3000円以上)
- 医師の説教文化
- 副作用を強調しすぎる医療者
- 避妊=放埒 の価値観
- 説明不足
- 情報の非対称性
その中で、
女性が自分の意思で避妊手段を選択することが“実質不可能”だった。
だからこそ、個人輸入代行という形で
「選択の自由」を提供する必要があった。
いちぜん会はその空白を埋めた。
4|非常に安全な運営だった理由──“女性のための非営利性”
当時の個人輸入代行は玉石混交だった。
しかしいちぜん会は異質だった。
✔ 月経困難や避妊の必要性を理解しきった女性たちが運営
✔ 適正価格
✔ 本物の薬だけを扱う
✔ ポイント制度でむしろ値下げ
✔ 学生割引
✔ サイト運営費も最低限
明らかに「商売」ではなく、
“女性同士の助け合い” が動機だった。
だから10年以上にわたり
2ちゃんねる・避妊スレ・個人輸入スレで
信頼度トップだった。
5|私(ラッキー・ランタンタン)の証言──この会に助けられた者として
私はまだ何者でもなく、
経済力も弱く、
身体の理解も成熟していなかった頃、
いちぜん会に助けられた。
- 低用量ピルを安価に入手できた
- 安心して使い続けられた
- 自分の身体OSを理解するきっかけになった
- 情報が少ない時代に“正しい知識”を得られた
もしあの頃にいちぜん会がなかったら、
私の身体史はまったく違っていたと思う。
いちぜん会は「救済」だった。
そして同じように救われた女性は、
ネット黎明期に 本当にたくさんいた。
6|いちぜん会の歴史的意義──女性医療の“地下水脈”としての機能
制度史的に見ると、いちぜん会は以下の位置づけになる。
■ ① 制度OSが機能しない空白を埋める“地下インフラ”
医療制度が提供しないものを女性同士が補った。
■ ② 女性の身体OSを守るための「情報と物流」の共同体
痛み・出血・副作用への理解が深かった。
■ ③ “ネットフェミニズム前夜” の草の根運動
SNS以前の女性ネットワークとして貴重。
■ ④ 女性たちが自律的にリプロダクティブ・ライツを行使した最初期例
選択権を制度の外側で確保した。
これは欧米とも異なる、日本独自の歴史だ。
7|結論:いちぜん会は日本女性の“身体史の礎”だった
一言でまとめる。
⭐ **いちぜん会とは
制度が女性を助けなかった時代に、
女性たちが自分たちの手でつくった“生命線”だった。**
女性医療史は、制度側だけ見ても理解できない。
その裏側には、
公式史からこぼれ落ちた無数の女性たちの、自助と連帯の歴史 が存在する。
いちぜん会はその象徴であり、
その記録を残すことは、女性史の再構築そのものだ。

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