ライフデザインドラッグ再び|ジエノゲストを「初経から閉経まで」と語る前に

ライフデザインドラッグ再び

ジエノゲストを「初経から閉経まで」と語る前に

先日、ジエノゲストについて調べていて、ある婦人科のウェブサイトを見つけた。

そこには、ジエノゲストを低用量ピルに代わるホルモン治療の第一選択として位置づけ、初経から閉経まで、あるいは妊娠を希望するまで使用できるという、かなり明るい未来像が描かれていた。

月経をなくすことで、子宮や卵巣を守る。

月経痛やPMSから解放され、快適に暮らせる。

血栓症の心配がある低用量ピルよりも使いやすく、思春期から利用できる。

読んでいるうちに、私は少し昔のことを思い出した。

低用量ピルが「ライフデザインドラッグ」と呼ばれ、女性の人生を薔薇色に変える薬のように語られていた時代である。

私はホルモン剤に反対しているのではない

最初に書いておかなければならない。

私はホルモン剤に反対している人ではない。

低用量ピルを使い、ミニピルにも挑戦し、ノアルテンを服用し、現在は二度目のミレーナを挿入している。

緊急避妊薬の市販薬化運動にも、2014年頃から関わってきた。

ホルモン剤は、女性が妊娠の時期を選び、月経痛や過多月経を治療し、学業や仕事を継続するための強力な道具である。

ホルモン剤なくして、現代女性の解放はあり得なかったとさえ思っている。

だから私は、女性に薬を使わせないことで安全を守ろうとは思わない。

私が大切にしているのは、女性が薬について理解し、自分で選べることだ。

利益だけでなく、危険や不確実性も知る。

どこに作用する薬なのかを知る。

何を定期的に調べる必要があるのかを知る。

そのうえで、自分の身体にとって利益が大きいと思えば使う。

私はこれを、ホルモン剤を「頭で飲む」と呼んでいる。

ミレーナは飲まないけれど、頭で挿れる。

低用量ピルも、かつて薔薇色だった

低用量ピルが日本で承認されて以降、医療界や啓発活動の中では、ピルを女性の人生設計を助ける「ライフデザインドラッグ」として紹介する言葉が広がった。

避妊ができる。

月経痛が軽くなる。

月経日を調整できる。

ニキビやPMSも改善する。

女性が自分の身体と人生をコントロールできる。

その説明自体は間違いではない。

低用量ピルによって救われた女性は大勢いる。

しかし、利益を強く語る一方で、血栓症については「非常に稀だから怖がる必要はない」という空気もあった。

年齢が高くても使える。

プレ更年期にも使える。

低用量だから安全である。

そうした明るい説明が、長いあいだ先行していた。

そして2014年、月経困難症治療薬ヤーズについて、因果関係を否定できない血栓症死亡例が集積し、安全性速報、いわゆるブルーレターが出された。

死亡した人の中には、事前に血栓症を疑わせる症状があり、医療機関を受診していた例もあった。

薬のリスクが存在していたことだけが問題なのではない。

患者と医療者が、そのリスクを早期に発見し、対処するための知識と習慣を十分に持っていたのか。

そこが問われた事件だった。

祭りのようだった低用量ピルの言説は、ブルーレターのあと、急に静かになった。

私はその空気の変化を覚えている。

だから、別のホルモン剤が再び「軽やかな人生を作る薬」として語られ始めると、少し立ち止まってしまう。

ジエノゲストが使いやすい理由は分かる

ジエノゲストが低用量ピルより使いやすいと感じる医師や患者が多いことは理解できる。

エストロゲンを含まないため、低用量ピルで問題になる血栓症リスクを避けやすい。

排卵や内膜増殖を抑え、月経痛や子宮内膜症の痛みを軽減する力が強い。

定期的な消退出血を起こす必要もない。

低用量ピルを使いにくい喫煙者、片頭痛のある人、年齢が高い人にも選択肢となりうる。

不正出血が落ち着き、身体に合えば、非常に快適に使用できる人もいるだろう。

私は、その利益を否定したいのではない。

ただし、便利で使いやすい薬であることと、初経から閉経まで数十年間使用してよいことは、同じではない。

「使用できる年齢」と「40年間使える」は違う

10代にも処方できる。

40代や50代にも処方できる。

この二つが成立したとしても、

一人の人が10代から閉経まで、約40年間連続して服用して安全である

という結論にはならない。

対象となりうる年齢の幅と、個人の累積投与期間は別の問題である。

現在の添付文書では、ジエノゲストについて、1年を超える投与の有効性と安全性は確立していないとされている。

1年を超えて使用する場合には、治療上必要な場合に限り、血液検査や骨塩量検査などを定期的に行い、患者の状態に十分注意することが求められている。

最大骨塩量に達していない患者については、将来の骨粗鬆症リスクも考え、投与中の骨塩量を定期的に確認し、漫然と継続しないよう明記されている。

小児を対象とした国内の有効性・安全性試験も行われていない。

これは、

危険だから使用してはいけない

という意味ではない。

長期間使用するなら、必要性を確認しながら、身体を測り続ける薬である

という意味である。

しかし「初経から閉経まで、月経から解放された快適な人生」という言葉の中では、その条件がすっかり抜け落ちてしまう。

0.5mgだから大丈夫、で終わらせてよいのか

月経困難症に使われるディナゲスト0.5mg錠は、通常1日2回服用するため、1日の総量は1mgとなる。

子宮内膜症などに使われる1日2mgより少ないため、卵巣機能や骨密度への影響も小さい可能性はある。

しかし「小さい可能性がある」と「影響がないことが確認された」は違う。

まして、思春期から数十年間使った場合の安全性が証明されたわけでもない。

長期投与例の骨密度については、現在も小規模な研究が行われ、どのような人に影響が出やすいのか、血清エストラジオールやBMIとどう関係するのか、どの頻度でDXAを測るべきなのかが検討されている段階である。

まだ研究途中なのだ。

研究者が「さらに経時的に観察する必要がある」と述べている横で、患者向けサイトだけが「思春期にも安心」「初経から閉経まで」と未来を完成させてしまう。

私は、その距離を少し怖いと思う。

骨密度検査は、数字を測るだけではない

ジエノゲストを長期処方する患者に、毎年骨密度検査を行っているクリニックもある。

全員が必ず年1回測定すべきかどうかは、年齢、体格、栄養状態、使用量、使用期間などによって異なるだろう。

しかし、そのクリニックで治療を受けた患者は、

私はこの薬を長く使っているので、骨密度も確認する必要がある

という習慣を持つ。

引っ越しや進学で別の病院へ移っても、

骨密度は測らなくてよいのですか?

と医師に質問できる。

薬だけではなく、自分の身体を長期的に監視する能力まで渡されている。

一方で、

低用量なので影響はほとんどありません
稀なことなので心配しなくて大丈夫です

とだけ説明された患者は、その習慣を持たない。

医師が代われば、骨密度の話は途切れる。

服用開始から8年後になって、初めて「そろそろ骨密度を測りましょうか」と言われるかもしれない。

それでよいのだろうか。

骨密度への影響が大きいか小さいかを最終的に判断するのは、医師だけではない。

その身体を閉経後も老年期も運ぶ患者本人である。

小さいかもしれないリスクを知り、それでも利益が大きいから服用する。

定期的に測定しながら継続する。

別の方法を選ぶ。

それを決める権利は、本人にある。

医師が「大丈夫」と先に結論を出し、患者から考える材料を取り上げてはならない。

快適さを売ることと、選べる人を作ること

「月経痛を我慢しないで」という呼びかけは大切である。

月経を毎月起こす必要はない、という知識も広がってよい。

婦人科を気軽に受診できる社会も必要だ。

私はそこに反対していない。

けれども、

月経に煩わされるなんてナンセンス
薬で止めれば軽やかに生きられる
子宮や卵巣も守られる
初経から閉経まで続けられる

という一続きの物語になると、治療の説明ではなく、人生の完成予想図の販売に近づく。

HPO軸は、そんなに単純な装置ではない。

視床下部、下垂体、卵巣、ホルモン受容臓器、子宮内膜、骨、血管、代謝が、互いにフィードバックしながら動いている。

私はこれを、カスのピタゴラスイッチと呼んでいる。

一か所を動かしたら、狙った効果だけがきれいに出るとは限らない。

それでも必要なら使う。

苦痛を我慢する必要はない。

ただし、カスのピタゴラスイッチへ介入する薬を、夢だけで飲ませてはいけない。

私が警戒しているもの

私は、ジエノゲストによって骨粗鬆症が必ず起こると言いたいのではない。

ジエノゲストを使うべきではないとも思わない。

公開サイトだけを見て、実際の診察室でも説明が不足していると断定することもできない。

私が警戒しているのは、薬の副作用そのものだけではない。

利益が明るく大きく語られ、不確実性が小さな但し書きになること。

使用できる年齢の広さが、数十年間の安全性へ読み替えられること。

稀なリスクだからと、本人が監視するための知識や習慣まで渡されなくなること。

医療者の善意とクリニックのサービス性が、薬剤監視より先へ走ること。

低用量ピルが「薔薇色のライフデザインドラッグ」としてもてはやされていた日のことを、私は覚えている。

恩恵は本物だった。

しかし、リスクを軽く扱った結果、死ななくてもよかった人が死んだ歴史もある。

だから、似た明るさを持つ言葉を見ると、私は少し立ち止まる。

また祭りが先に始まっていないか。

処方した身体を、誰が何年見続けるのか。

患者本人は、自分の薬について質問できるだけの知識を渡されているか。

ジエノゲストを、夢の薬から本人の薬へ戻すために、私はそこを見ていたい。

ホルモン剤は、女性を解放した。

だからこそ、女性から判断する権利を奪う形で処方してはならない。

参照した主な資料

  • PMDA「ディナゲスト錠0.5mg 添付文書」
  • 持田製薬「ディナゲスト適正使用のお願い」
  • PMDA「ディナゲスト錠0.5mg 審査報告書」
  • 日本産科婦人科学会雑誌「5年以上のジエノゲスト長期投与例の骨密度への影響」
  • PMDA「月経困難症治療剤ヤーズ配合錠による血栓症について」
  • 婦人科医療機関が公開するジエノゲスト患者向け説明ページ

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